”1人”のためにできることとは?自治体職員が本気で考えた3日間【OMO Niigata】

「自治体職員」と聞くとどんなイメージをお持ちでしょうか。真面目?ルールをしっかり守る?堅実?もちろんこれは素敵なことですね。
ですが、それだけじゃない、熱い想いを持った”攻め”の職員もいらっしゃいます。
今回は、新潟県で行われた「自治体職員による自治体職員のための研修」をご紹介します。
OMO Niigataとは?
2018年2月16日~2月18日の3日間、新潟県内の自治体職員(20~30代)を対象に開催。テーマは「”1人”の人を”100万円”の予算を使っていかに幸せにするか」で、100万円の予算があると仮定し、ある1人を幸せにする企画を考えて発表するというもの。
参加職員でチームを組み、プラン練り上げからプレゼンテーションまでを実施。それらを、民間のメンター・コーチ・審査員に審査してもらう官民協働のアイデアソン型研修プログラムです。
週末の貴重な3日間を使った研修は、参加費7,000円というお安くない設定。にもかかわらず参加者40人、見学含め120人(延べ215人)という人が集まり、活発に意見を交わす場となりました。
”1人”を幸せにするために
8つのチームに分かれ、それぞれのグループでシチュエーションと対象人物像(ペルソナ)を設定。問題解決のためにどうしたらいいかをプレゼンし、その後審査員からフィードバックがありました。
工夫を凝らした中身は以下の通り。
① 拝啓、愛する妻へ
県外から柏崎市に嫁いで来た参加者の奥さんをペルソナとして設定。彼女が抱えている不満を分析する中で、「同世代の人とつながるきっかけがなく、そういった情報も入ってこない」という部分に着眼。
解決方法として、地域コミュニティに特化したマッチングアプリの開発を提案。また、本人からの聞き取りの中で食に関する関心が高かったことから、夫婦で参加できるグルメツアーなどのイベントも提案。
これに対しては、直接ペルソナ本人の声が反映できたことや、人口調査について評価の声がありました。また、課題としてSNSだけじゃないPR方法や話題の深掘りが出ました。
ご自身が望む望まないに関わらず、環境が変わるというのはストレスがかかるものです。そんなとき、救いになるのは「好きなこと」「楽しいこと」ではないでしょうか。なかなか情報が得られない人にとって、マッチングアプリは助けになりそうですね。
② ハツイさんを幸せにする会
上越市の旧名家に住む高齢女性をペルソナに設定。老朽化が進む邸宅の維持管理や、独居による孤独・不安、地域での立ち位置などの問題に着眼しました。
これに対し、文化財としての邸宅の価値を多くの人が共有することで、維持管理と孤独の両方が解決できるのではと考えました。「100年後の未来を創るワークショップ」として、美術・建築・文化財などに関心のある学生、教授、クリエイター、専門家を集め、古民家のリノベーションを実施。資金はクラウドファンディング等を想定しています。
こちらのプレゼンに対しては、「100年残す」という部分に必要性がほしいという意見がありましたが、手書きの資料やDIYブームにマッチしている等、総じて評価は高かったです。また、リノベーション後には宿泊できるようにすると事業化できそう、という具体的なアドバイスや応援したいという声も上がりました。
超高齢化社会、人口減少の影響でハツイさんのようなケースは多くあるでしょうし、これからの時代における大きな問題の一つです。全国的に同様の事例もあるようなので、ぜひとも実現してして人の流れを作ってもらいたいですね。期待が高まります。
③小林さんの門出
柏崎市在住、32歳の若手和紙職人をペルソナとして設定。少子高齢化が進む中山間地の集落の維持と、担い手不足の和紙業界の活性化を課題としました。
解決策として、大学生(特に芸術大学系)のインターンをきっかけとし、お試し移住→定住という導線を作ります。また「空き家xアート」をテーマにリノベーションし、シェアハウスを新しく作ることで交流人口の拡大と地域へのお手伝いができる人材確保を提案しました。
審査員からは空き家の活用や若者とのパイプを作るという面で有効という評価がありました。さらに、こういった事例はすでにビジネスとして成立している地域があるらしく、外国人観光客への企画としても現実的だそうです。
人口が減少している地域に、人を、しかも若者を呼び込むのは困難だと思われがちですが、空き家のリノベーションやシェアハウスなど彼らの興味を引き、活性化を狙う方法は素敵ですね。
④祭り人
新潟市南区在住、「新潟総おどり」に参加している65歳の踊りが好きな女性をペルソナとして設定。年齢を重ねるとともに思ったように踊れなくなる不安と、家事の負担や家族の介護などで踊りに費やす時間が取れないという問題に着眼。
解決策として、群馬県前橋市に先進事例がある「ファミリーサポートセンター」制度に着目し、行政によるサポート制度を整備することで、趣味の踊りに使える時間を確保するという解決策を提案しました。
審査員の総評として、解決策であるファミリーサポートとのつながりが見えにくかった、企画のブラッシュアップに取り組んでほしいという要望が上がりました。一方、ペルソナの設定が素敵だったという高評価も。
好きなことを好きな時に楽しめたら最高ですよね。ですが、仕事や子育て、介護などが生活の一部となっている人にとって、時間を作ることが困難だと感じることもあるでしょう。ファミリーサポート制度は子育て中の方に活用されるイメージでしたが、自治体によっては介護で利用することも可能なのですね。発想を柔軟にすることで生活の質が向上する、そんな未来に期待します。
⑤ひとつなぎ
新発田市の商店街で飲食店を営む45歳男性をペルソナとして設定。味はよいものの、商店街自体の衰退に伴い客足が落ちていること、一見では入りづらく店の魅力がうまく伝わっていないことを問題として設定。
新発田市役所が商店街近くに移転、新設されたことに着目し、市役所の広場を活用します。地元の店にお弁当を出してもらう仕掛けを、城下町ならではの視点でお弁当献上プロジェクトとして提案しました。
こちらのプレゼンに対しては、お弁当を作るという業務が負担だという意見が出る一方、興味を持って具体的に動いてほしいという声も上がりました。
お弁当を作るとなると、材料も人手も多くかかってしまうかもしれません。ですが、お店の知名度アップが見込める上、消費が増える可能性もありますよね。個人的には、実際に開始したらどんな効果があるのか興味があります。
⑥シゲさんに会いたい
里山の保全に取り組む高齢の男性農業者をペルソナとして設定。人口減少と里山の荒廃を解決すべき課題として設定し、解決策としては「人」の魅力に着眼し、ペルソナ本人の「自伝」を出版することを提案。
教授がメンターとして入っていた新潟国際情報大学と連携し、社会学の学生による自伝作成をゼミの中で行い、里山の高齢者と学生を結びつけることで交流人口の拡大を図る。また自伝としてアーカイブ化することで、県外にも発信できるような仕組みを企画しました。
審査員からは自伝出版までにかかる時間や学生を使うことの手間などが課題として上がりました。工夫が必要になりそうですが、企画と着目点は評価されています。
自伝を出版するという発想は面白いですね。シゲさんという人物の魅力とともに、活動の詳細を伝えることができますね。里山の高齢者と学生という、一見結びつかない両者を繋げようとする動きも興味深いです。
⑦SAKURAWA TRYMER
新潟市内の高校に通う16歳女子高生をペルソナとして設定。「ダサいことはしたくない」、「やりたいことは特にない」ということを問題として捉え、「やりたいことをやる」マインド醸成と環境づくりを目指します。
「GROO部」という名称で校内にコワーキングスペースをつくり、「やりたいことをやっている」大人と出会う場にします。企業と連携し、文化祭の盛り上げやインターシップの形式でアルバイトを許可してもらうなどの仕掛けを提案しました。
こちらのチームは、テーマである女子高生の興味に対して更なる深掘りが欲しいという声がありました。ですが、オーディエンスを巻き込むプレゼンの方法で、企画と共に高評価を得られました。
「やりたいことは特にない」とか言ってる女子高生と「やりたいことをやっている」大人の出会い。これだけでもどんな化学反応がうまれるのか?と興味をそそられるのに、出会いの場であるコワーキングスペースを校内に作るというのがまた斬新です。セキュリティ面などクリアすべき課題はあるでしょうが、カタチになった姿を見てみたいです。
⑧哲子は走り続けられるか
24歳の女性県職員をペルソナとして設定。残業と仕事によるストレスの蓄積を抱える彼女を分析し、ストレスを判断する基準がなかったことを問題として提起。
解決策として、ストレスを”見える化”するシステムを開発。モデル事業として腕時計型のメンタルヘルスチェッカーを導入し、民間企業と連携したデータの分析とストレスの基準づくり研修会の実施を提案しました。職員の求職コストを試算し、導入の妥当性を補足しています。
もう少しペルソナの生活習慣、趣味嗜好などの設定に深掘りが必要だったという課題はあるものの、ウェアラブル端末を使ったストレスチェック体制は高評価でした。
ストレスとはなかなか目に見えないものですし、何か症状が出た時に「原因はストレスかな」と気づくことが多いですよね。軽度から重篤な症状まで影響を及ぼすストレス。自分で気づきにくい、「ストレスの見える化」はとても画期的ですし生活を見直すきかっけにもなりそうですね。
アンケートより
3日間で得たもの、気づきを知るためにアンケートを実施。以下のような回答がありました。
・刺激を与えてくれる人とネットワークを作ることができた。普段全く取り組んでいない(考えていない)ことをすることができた。
・今までの自分なら参加すらしていなかった。いろいろな人と知り合い、話すことができた。
・心地よい疲労感。
・最初は「7,000円」も払って大丈夫だったのか…?」と不安だったけど、プライスレスな経験が出来ました!
・インプットが足りないのはもとより、アウトプットができないことに想像以上に驚いた。
また見学した人にとっても刺激になったようで、「日ごろの業務に取り入れたい」「次回は参加したい」という声が上がりました。
主催者インタビュー
今回の主催者である、新潟県庁の高橋さんにお話を伺いました。
Q1:なぜこのような研修を開催しようと思ったのでしょうか?
プライベートで地域活性化に関わっていましたが、一人では限界を感じ、内部にも仲間を増やしたいと思ったのがきっかけです。
Q2:開催から3ヶ月経ちましたが、その後何か変わったことはありますか?
参加者のプレゼンの中から、既に具体的なアクションに入っているチームがあります。とはいえ、なかなか1回のイベントだけで内部を変えるというのは難しいなと思っています。
私はこのイベントをきっかけにますます色々な案件が飛び込んでくるようになり、相変わらずプライベートは大忙しです。笑
Q3:開催してみて良かったと思うことは何ですか?
とりあえず疲れましたが、審査員やコーチ、スタッフの方含めて一体感を感じることができました。
また、これまで自治体職員に対して「どうしてこんな考え方や言い方、行動をするのだろう」と疑問に思っていましたが、少しだけ理由というか、その考え方の根底にある問題、課題が見えたような気がしています。
Q4:参加者にとって今後必要とされることは何でしょうか?
「課題は誰かが与えてくれ、誰かが評価してくれる」という思い込みを捨てることですね。具体的に第一歩を踏み出してみないと、何も得られません。
まずはプライベートからでも、どんなことでもいいので第一歩を踏み出すこと。そして、それをちゃんと発信すること。SNSなどを使えば個人でも発信できる時代です。
Q5:また開催したいと思いますか?
やってみたいとは思っていますが、今回は反省点も多く、次はもっと課題や目的を絞ったり、方法も工夫したいと思います。
本当は私じゃない人間が自発的にやってくれると面白いんですけどね…笑
Q6:最後に一言お願いします!
急激に変化し複雑化する社会の中で、10年後、自分は、自治体はどうなっているのか。
仕事だけでなく、プライベートでも常に問題意識を持ってトライ&エラーを続けていきます!
最後に
いかがでしたか?職員が自発的に行った研修。こういった取り組みが各地に広がればいいなと思います。
自治体職員”だから”できること、自治体職員”だけど”できること。
今までの固定概念を大切にしつつ、職員自身が新しいことにチャレンジ出来たら、世の中が少しずつ変わっていくのかもしれません。