テクノロジーで地域社会が変わる?自治体によるAI活用事例5選

人工知能(AI)はさまざまな分野で導入され、成果を挙げているテクノロジーです。
地方自治体でもAIが活躍しており、地域社会のあり方に大きな影響を与えています。
この記事では、どのようにAIが取り入れられているのか、事例を紹介していきます。
どんな仕事に便利?自治体におけるAI活用の意義とは
AIを地方自治体の業務に取り入れると、多くのメリットが生まれます。たとえば、「業務効率のアップ」は代表的なメリットでしょう。
AIを活用すればこれまで職員が行ってきた複雑な統計、計算が瞬時に完了します。しかも、人が行うよりもはるかに正確なため、トラブル防止にも役立っています。
また、「地域住民へのサービス向上」にもAIは効果的です。役所などに設けられた窓口では、職員の数が足りずに住民への対応が遅れがちでした。しかし、AIを窓口に置けば住民からの問い合わせにすぐ応じられるようになります。
豊かな地域社会を実現するため、すでに多くの自治体がAIを実用化し、目立った結果を残し始めています。
保育所割り当てを数秒で算出(埼玉県さいたま市)
さいたま市では、保育所選考の入所割り当てを算出できるAIを開発したことで話題になりました。これまでの保育所選考は、地域住民の希望、現住所などを参照しながら職員の手によって行われてきました。複数の条件が絡み合ううえ、保護者の個人的な要望も加わる選考は、「人の手でないと難しい」とされてきたからです。万が一、希望に沿わない割り当てを告げられた保護者は、市にクレームを入れる恐れもありました。
しかし、さいたま市のAIは8000人分の入所割り当てを数秒で算出し、今後の保育所選考に大きな可能性を示しました。これで、職員の負担がおおいに軽減されるだけでなく、すべての家庭が満足できる割り当ての実現が近づいたといえます。
移住コーディネーター(福岡県糸島市)
地方にとって「移住者の増加」は重要な課題です。地域社会の過疎化、高齢化を防ぐためには新しい住民が必要だからです。福岡県糸島市は美しい自然に囲まれた魅力的な地域ではあったものの、「移住してからの生活が不安」と考える人々は少なくありませんでした。
そこで、糸島市が導入したのは「AIによるマッチングシステム」です。移住希望者はシステムに、移住後に求める条件を細かく伝えます。そうすると、AIが希望者に最適の移住先を算出してくれる仕組みです。AIの回答をもとに希望者は市の担当者と話し、より具体的なプランを練っていきます。
このシステムは新天地に感じる不安を事前に解消できるだけでなく、明確なビジョンを持って移住するために役立つでしょう。
問合せ対応サービス(神奈川県川崎市)
地方自治体のホームページに関して「見づらい」「欲しい情報がすぐに出てこない」と感じている住民は少なくありません。「FAQ」を設置したり、問合せ窓口で対応したりして対策は練られてきましたが、効率的といえないのが現状です。
そこで、神奈川県川崎市では、AIによる問合せ対応サービスの実証実験が行われました。この実験では、問合せをしてきた人の川崎市ホームページにおける「閲覧データ」をAIが参照し、対話形式で正確な対応ができるかどうかが確かめられました。その結果、実験に協力してくれた人の約半数が「大変便利」「まあまあ便利」と回答し、約9割が「サービスを継続してほしい」と望んでいます。
住民の暮らしにまつわる疑問の解消に、AIは大きな可能性を示しました。
職員の知恵袋(大阪府大阪市)
地方自治体の業務の中でも、特に難易度が高いといわれているのが「戸籍」に関する手続きです。法律についての深い知識が必要なだけでなく、用意するべき書類も多岐にわたるため、特に経験の浅い職員は問合せへの対応に時間をとられがちでした。
そこで、大阪府大阪市では「職員の知恵袋」という形でAIの実用化を目指しています。「職員の知恵袋」は、住民からの問合せを受けた際に職員が疑問点を確認するためのシステムです。職員が疑問文を入力すると、AIが最適な回答を導き出して業務を効率化できます。
戸籍部門で成功した後は他の部署での導入も前向きに検討されており、動向に注目が集まっています。
総合案内サービス(静岡県掛川市)
静岡県掛川市では2018年3月1日から31日にかけて、「AIスタッフ総合案内サービス」の実証への協力を住民に呼びかけて話題になりました。このサービスはスマートフォンなどと連動し、住民が行政サービスへの疑問点を問合せられる内容です。行政の知識が乏しい住民でも、AIとの対話を重ねることで疑問点をしぼり出し、問題解決にいたれる仕組みになっています。
実験期間では実際に住民がAIと特設サイトで対話し、疑問点が解消されたかどうかのアンケートに答えました。アンケート結果を元にしてシステムには改良が加えられていく予定です。行政サービスの質向上につながるとして、掛川市は実用化に向けて力を注いでいます。
AIはさまざまな場所で地域社会に貢献できる
地方自治体と住民の距離を縮めるために、AIは大きな役割を果たせるでしょう。
AIによって問合せ対応の質は向上し、複雑な行政の手続きが簡略化されていくと期待されています。また、職員側にとってもAIは大きな助けとなります。
地域社会にAIが不可欠な存在になるのも、遠い未来の話ではないでしょう。