地方創生2.0とは?政策の全体像と自治体・民間企業の役割

はじめに
地方創生2.0は、自治体とのビジネスに関わる多くの企業にとって、無視できない重要なキーワードです。令和7年6月に閣議決定された「地方創生2.0基本構想」は、今後の地域戦略の指針であり、企業にとっては新たな事業機会となります。
これまでの地方創生1.0との違いやビジネスへの活かし方を理解するため、本記事では「地方創生2.0」の全体像と、官民それぞれの役割を解説します。ビジネスを成長させるためのヒントにしてください。
目次
1.地方創生2.0とは?
令和7年6月13日 、新たな地方創生の指針となる「地方創生2.0基本構想」が閣議決定されました。この構想の目的は、各地域がそれぞれの特性を活かして自立し、相互に連携し合う「自立分散型社会」を目指すことにあります。この章では、地方創生2.0が掲げる基本姿勢から具体的な政策の柱まで、その全体像を詳しく解説します。
1-1.地方創生2.0の背景と地方創生1.0との違い
平成26年に始まった地方創生1.0は、急激な人口減少と東京圏への極端な人口集中という構造的課題への挑戦でした。しかし、平成26年から令和6年の10年間、東京都の転入超過数は連続で増加しており、「東京一極集中の是正」という目標とは逆行する結果となりました。
課題として挙げられているのは、各地で生まれた「好事例」が他の地域で応用可能なモデルへと発展せず、国全体の大きな潮流を変えるまでには至らなかったことです。
この結果は、補助金を活用したイベント開催といった施策だけでは、持続可能な雇用を生み出す「稼ぐ力」の構築に直結しにくかったことを示唆しています。
こうした厳しい現実認識の上に構想されたのが地方創生2.0です。
これは単に政策のマイナーチェンジをはかったわけではありません。地方創生1.0が「人口減少を克服する」ことを目指したのに対し、地方創生2.0は「人口減少が続くことを正面から受け止め、その上で適応策を講じる」という、現実主義に基づいた戦略への根本的な転換を意味しています。
1-2.地方創生2.0の目指す姿
地方創生2.0は、都市も地方も、性別や世代を問わず、誰もが楽しく、安心して暮らせる持続可能な社会を創ることを目指しています。強い経済と豊かな生活環境を基盤とし、地域や人々の多様性を活かして「新しい日本・楽しい日本」を創り出していくことが、その全体像です。
このビジョンは、国や自治体、そして地域の住民や企業などが一体となって実現を目指す、「みんなで取り組む社会像」として描かれています。それぞれの地域で「新しい・楽しい」取り組みを広げ、多様なステークホルダーを巻き込んでいくことで、国全体の経済・社会を変革する大きな流れを生み出すことを目指します。
1-3.地方創生2.0の基本姿勢・視点
地方創生2.0のビジョンを実現するため、6つの「基本姿勢・視点」が掲げられています。
| 基本姿勢・視点 | 内容 |
| 人口減少への認識の変化 | 人口減少を前提とし、社会や経済が機能し続けるための適応策に重点を置く。公共サービス維持やインフラ整備などまちづくりでの官民連携を推進。 |
| 若者や女性にも選ばれる地域 | 意識改革や魅力的な職場づくりを進め、若者や女性が「住みたい・働きたい」と思える地域を目指す。 |
| 人口減少下でも「稼げる」地方 | 地域の多様な資源やポテンシャルを活かして高付加価値化を進め、自立した経済を構築する。 |
| AI・デジタルなどの新技術の徹底活用 | AIやデジタル技術をあらゆる分野で活用し、地域経済の活性化と生活環境の向上を実現する。 |
| 都市と地方が互いに支え合い、 人材の好循環の創出 | 関係人口を活かし、都市と地方の間で人材や技術の交流を活発に。新たな連携や協働の流れをつくる。 |
| 好事例の普遍化と、 広域での展開を促進 | 個別の成功事例を他の地域でも応用可能なモデルとし、市町村の枠を超えた広域連携を強化していく。 |
これらは、政府がこれまでの行政主導モデルの限界を認め、新たな成長の源泉をどこに求めているかを示す明確なマーケット・シグナルと解釈できます。
1-4.地方創生2.0の政策の5本柱
地方創生2.0の実現に向け、政策として以下の5本柱が掲げられています。
| 政策の柱 | 内容 |
| (1)安心して働き、暮らせる 地方の生活環境の創生 | 若者や女性が安心して暮らせる地域づくりと、民間の力を活かした質の高いまちづくりや防災力の強化を図る。 |
| (2)稼ぐ力を高め、 付加価値創出型の新しい地方経済の創生 | 地域のポテンシャルを最大限に活かし、分野の異なる施策や人材、技術を新たに組み合わせる「新結合」によって付加価値を生み出す |
| (3)人や企業の地方分散 | 東京一極集中の課題に対応するため、人や企業の地方分散を進め、関係人口を活かして地方への新たな人の流れを創出する。 |
| (4)新時代のインフラ整備とAI・デジタルなど 新技術の徹底活用 | GX・DXに向けたワット・ビット連携などのインフラを整備し、AIやドローンなどを活用して地域の社会課題解決を図る。 |
| (5)広域リージョン連携 | 都道府県や市町村の境界を越え、企業や大学など多様な主体が広域的に連携し、地域経済の成長につながる施策を展開する。 |
1-5.地方創生「2.0」はなぜ地域ビジネスに関係があるのか?
地方創生2.0が地域ビジネスにとって重要な理由は、それが単なる地方の活性化ではなく、日本の活力を取り戻す経済政策 であるからです。その実現のため、地方の魅力を引き出して経済成長を促すための基盤を整える、という視点が大きな特徴となっています。こうした背景から、地域で新たな事業や雇用を生み出す民間企業の役割がこれまで以上に重要視されているのです。

2.地方創生2.0で地方自治体に期待されていること
地方創生2.0の推進において、地方自治体は中心的な役割を担います。市町村と都道府県、それぞれに期待される役割は異なります。
2-1.地方創生2.0における市町村の役割
市町村は、地方創生2.0を現場で中心的に担います。地域の関係者を巻き込みながら、主体的に取り組みを推進していく役割が期待されています。
また、他の地域の好事例などを学び、活用するとともに、人材育成にも積極的に取り組むことが求められます。それぞれの市が持つ特性に応じて必要な機能の高度化を図っていくことも重要な役割です。
2-2. 地方創生2.0における都道府県の役割
都道府県は広域の自治体として重要な役割を担います。主な役割は市町村間の調整や国との連携などです。
また、統計指標などの様々なデータを活用して市町村の状況を可視化し、市町村が主体的に動けるように支援することも求められています。
2-3.地方自治体が地方創生2.0で重視する視点と主な取り組み
地方自治体が地方創生2.0で重視する取り組みは、政策の5本柱に沿って具体的に示されています。
①安心して働き、暮らせる地方の生活環境の創生
民間主導による質の高いまちづくりや、若者・女性に選ばれるための働き方改革を推進します。スーパーなどに行政機能を持たせる「地域くらしサービス拠点」の整備や、郷土学習の充実による人材育成、ライドシェアなどを活用した「交通空白」の解消にも取り組み、生活全体の環境を向上させます。
②稼ぐ力を高め、付加価値創出型の新しい地方経済の創生
スタートアップを生み出すエコシステムの形成を強化し、拠点都市を拡大します。また、インバウンド誘客を促進し、2030年に訪日客6,000万人を目指す観光地の高付加価値化を進めます。文化・スポーツ資源や豊かな自然環境を活かした地域づくり、地域の脱炭素化なども重要な取り組みです。
③人や企業の地方分散~産官学の地方移転、都市と地方の交流等による創生~
企業の本社機能の移転を税制などで支援し、3年間で従業員1万人の増加を目指します。また、スマホアプリで登録できる「ふるさと住民登録制度」を創設し、関係人口の創出を加速させます。若者や農林水産業、エッセンシャルワーカーなどを対象にした移住支援事業も強化します。
④新時代のインフラ整備とAI・デジタルなどの新技術の徹底活用
電力と通信を連携させるワット・ビット連携を推進し、地域の特性を活かしてデータセンターの誘致などを図ります。また、地方において自動運転やドローン等のデジタル技術を活用したサービス展開が可能となるよう、デジタルライフラインの整備を加速させます。
⑤広域リージョン連携
単独の自治体では難しい課題に対し、都道府県の境界を越えて他の自治体や経済団体、大学などと連携する「広域リージョン連携」の取り組みを進めます。半導体産業の支援や周遊型観光の促進といったプロジェクトを共同で推進し、先行する3か所の広域リージョンから全国展開を目指します。

3.地方創生2.0で民間企業に期待される役割
地方創生2.0の実現には、民間企業の参画が不可欠です。
以下では、政策の方向性を踏まえ、民間企業に求められる役割の一部を整理します。
①地域資源を活用した新しい産業やサービスの創出
地域の農林水産物、観光資源、文化資産といった独自の資源に、新たなアイデアや技術を掛け合わせることで、これまでにない産業やサービスを創出し、地域経済を活性化させる役割が期待されます。
②デジタルや新技術を取り入れた生産性向上・効率化
地方創生2.0では、AI・デジタル技術の徹底活用が政策の柱のひとつに位置づけられています。
これは、単なる業務効率化にとどまらず、地域課題の解決や新たな価値創出の基盤づくりを意味しています。民間企業には、その実装段階を担う「実働パートナー」としての役割が期待されています。
たとえば、行政手続きのオンライン化による住民サービスの利便性向上、センサーやAIを用いたスマート農業・スマート林業、MaaS(次世代交通サービス)による移動の最適化、さらには防災や医療・教育のDX(デジタルトランスフォーメーション)化など、活用領域は多岐にわたります。
③雇用創出と地域人材の活躍機会の拡大
地域に根差した事業を通じて、新たな雇用を創出することが期待されています。特に、若者や女性、高齢者など、多様な人材がその能力を発揮できる就労機会を拡大し、地域社会を支える人材の活躍を促す役割が求められます。
④地域発スタートアップや外部企業との連携強化
地方創生2.0では、地域内の企業や団体だけでなく、スタートアップ・大学・外部企業・NPOなど多様なプレイヤーとの連携が重視されています。
民間企業には、これらの異なる主体をつなぎ、新しい価値を共に生み出すハブとしての役割が期待されています。
⑤高付加価値化と市場拡大
地方創生2.0では、単に地域で生産・販売を行うだけでなく、地域の魅力を高めて「稼ぐ力」を持続的に生み出す経済構造の転換が求められています。
民間企業には、地域産業やサービスの高付加価値化をリードし、国内外の市場におけるブランド競争力を強化する役割が期待されています。

4. 国からの支援:新しい地方経済・生活環境創生交付金(新地方創生交付金)
※本情報は令和7年9月時点の情報を参考としております
4-1. 新しい地方経済・生活環境創生交付金 創設の背景と目的
地方創生2.0の実現には、自治体と民間企業の協働だけでなく、国からの後押しが不可欠です。その一環として令和7年度から新設されたのが「新しい地方経済・生活環境創生交付金」です。
この交付金は、従来の「地方創生推進交付金」や「地方創生拠点整備交付金」、「デジタル田園都市国家構想交付金」などの流れを汲み、仕組みを発展させたものとして位置づけられています。人口減少・地域経済縮小といった課題に対応しつつ、デジタル・防災・産業構造転換など、時代の変化に適応した支援を行うことを目的としています。
4-2. 4つのタイプに分かれる交付金の概要
新しい地方経済・生活環境創生交付金は、自治体の多様なニーズに応えるため、以下の4つのタイプに整理されています。
①第2世代交付金
地方公共団体がより自由度の高い事業を行えるように新設された交付金です。地方公共団体の自主性と創意工夫に基づき、地域の多様な関係者が参画する地方創生の独自の取組を計画から実施まで強力に後押しします。
②デジタル実装型
デジタル技術を活用して、地域の課題解決や魅力向上に資する取り組みを支援します。例えば、「書かない窓口」や「地域アプリ」、「オンライン診療」といった事業が対象となります。
③地域防災緊急整備型
避難所環境の改善や地域防災力の強化を目的とした支援です。トイレカーやキッチンカー、テント式パーティション、仮設入浴設備などの整備、防災DXの導入が含まれます。
④地域産業構造転換インフラ整備推進型
半導体などの戦略分野における国家プロジェクトの産業拠点整備に必要となる関連インフラの整備を、機動的かつ追加的に支援します。
これにより自治体は、地域の現状や課題に合わせて最適な型を選び、事業を推進できます。企業にとっては、自社の技術やサービスがどの型に当てはまるかを見極めることが、提案活動の第一歩となります。

5.まとめ:地方創生2.0を自社のビジネスに活かすには
地方創生2.0は国が主導する「地方の自立」に向けた大きな構想です。その実現には、国や自治体、民間企業をはじめとする多様なステークホルダーが連携し、それぞれの役割を果たすことが不可欠です。
自治体は地域の未来を描く戦略を立ててその実行の核を担います。一方で、その戦略に血を通わせ、地域を「稼げる」状態に変えていく革新の担い手こそが民間企業です。多様な関係者が協働し、知恵を出し合うことで、新しい地域の経済・社会モデルを創造していくことが求められています。
自治体との共創を成功させるために、民間企業には特に以下の3つの力が求められます。
- 地域を“稼げる”状態にする企画力
- 多様なステークホルダーを束ねる調整力
- 計画を絵に描いた餅で終わらせない実装・改善の現場感覚
まずは自社の持つ技術やサービスやノウハウが、自治体が抱えるどのようなニーズや課題に応えられるのか、その接点を明確にすることから始めてみてはいかがでしょうか。
株式会社ジチタイワークスでは、これまで培ってきた自治体ノウハウ・ネットワークのもと、自治体向けプロモーションサービスをご提供しています。自社に合う自治体へのアプローチ方法がわからない、自治体営業をしているが思うように上手くいかないなど、自治体営業にお困り事がありましたら、いつでもご連絡ください。
