シティをプロモーションする広報紙(栃木県那須塩原市・小林さん)
皆さんは「シティプロモーション」って聞いたことがありますか?地域再生、観光振興、住民協働など様々な意味が込められた言葉です。住民に地元を好きになってもらうことが目的ですが、ほかにも、人口減対策や定住促進につながる市の魅力発信などを目指しています。
昨年12月から始まった「広報担当者インタビュー」。ちょうど10回目の今回は、栃木県那須塩原市シティプロモーション課広報広聴係の小林さんにご登場いただきます。「広報なすしおばら」は、月に2回発行しています。また、社会問題から自然、伝統芸能まで幅広く、かつ内容の濃い特集記事を掲載。広報紙づくりに市民参加も促しています。
ほどよく都会で自然が豊か
――自己紹介をお願いします
小林大地、30歳です。地元出身で学生の頃に那須塩原を離れ、民間企業の勤務経験を経て、市役所にUターン就職をしました。教育委員会の学校教育課への配属を経て、現在は広報広聴係4年目です。
那須塩原市は御用邸がある那須町に隣接し、那須連山や高原などの自然、塩原温泉郷などがあるリゾート地でもあります。市内には東北新幹線の駅があるため、東京から移り住み、70分前後をかけて東京まで新幹線通勤する方もいます。ほどよく都会でほどよく田舎という那須塩原の「空気感」に居心地の良さを感じていたことが、Uターン就職を決めたきっかけです。
月2回の広報紙に特色持たせる
――広報紙をリニューアルしたそうですね
広報紙は以前から毎月5日付と20日付の2回発行していました。いざ担当になったばかりの頃は、どのような広報紙を作ったらいいのか手探りなまま編集に携わっていたので、とりあえず取材で市民と接する際に、広報紙に対する感想を尋ねるようになりました。そうすると「字が多くて読むのにストレスを感じる」「情報が探しにくい」「市民も楽しめるような参加型の企画があるといいのでは」など結構ストレートな思いを多く聞きました。
このため、係長以下4名の職場であれこれ議論し、2016年5月からリニューアル。せっかく月2回発行しているのだからその強みを生かして、毎月5日号は特集を柱にまちの魅力を伝える「読み物特集版」、20日号は集約した行政情報などを分類して探しやすくした「お知らせガイド版」とそれぞれ特色を持たせることにしました。
地域を誇り、支える風土を
――特集にはかなり力を入れていますね
シティプロモーション課の役割は、人口減少対策や移住促進策を推進することで、広報の仕事はそのために市の魅力を発信することです。地方都市の例に漏れず那須塩原は人口がやや減少していますので、特集記事にはおのずと力が入ります。
最近では、市内に残る民俗芸能を紹介した3月の「祈り」が思い入れの強い特集です。
市内には31の郷土芸能があり、うち16は国・県・市いずれかの指定無形民族文化財になっています。特集では、そのルーツや唯一の神楽芸能である「木綿畑新田の太々神楽」の11ある舞を写真で紹介、伝承する人々のインタビューも掲載しました。
担い手不足という課題はありますが、まずは演じている人たちに誇りをもってもらい、多くの人に知ってもらうことで、地域みんなで支えていけるような風土を作れたら、という願いがありました。
市民参加の企画が好評
――表紙の写真を公募されていますが、なぜ始めたのですか?
「市民も楽しめるような参加型の企画があるといいのでは」という市民の声を受けて始めました。募集写真のテーマは「市の魅力が伝わる風景写真」ということだけ。みんながこのまちのどこに魅力を感じているか知りたかったので、あまり細かい制限はしていません。その結果、森の中にたたずむ鹿を収めた一枚や秋空の下で稲刈りをしている写真など、これまでとは違う視点の表紙になりました。
また、写真好きな人が応募してくれることもあり、クオリティも高く維持できます。広報に掲載されるのが撮影者本人のモチベーションを上げることにもつながっているようで、リピーターになる人も多くいます。すでに数十点の応募写真の蓄積がありますが、大切なのは数ではなくて、市民と一緒にまちの魅力を伝えるつながりを作れたことが、一つの成果だと思っています。
――他にもありますか?
身の回りの珍しい光景や出来事、思い出などを写真付きで投稿してもらう「なすしおばら珍百景」も好評です。取材に行くと、市職員も知らない地域の魅力や面白い風景を知っている住民と多く出会います。自分のちょっとした珍しい発見が、みんなに共感してもらえたら嬉しいじゃないですか。そういう個人的な出来事であっても、見方を変えればまちの魅力になるものと考えています。
そうした思いから、市民から市民へ魅力を伝える架け橋となることを考えて、この企画を思い立ちました。これもある意味でシティプロモーションだと思います。
地域を自慢したくなる広報紙を
――今後、どんな広報紙を作っていきたいですか
動画の撮影やホームページとの連携など、やってみたいことはまだまだたくさんあります。自分が住んでいる地域、那須塩原市を自慢したくなる、それでいて楽しく読める広報紙を目指したいですね。
取材:読売新聞西部本社 Copyright (C) The Yomiuri Shimbun.