地方自治体のユニークな職員募集ポスター5選
地方公務員が安定した人気の仕事だったのは、今や昔。好景気の影響で民間企業を志望する人が増え、少子化による若年者の人数の減少ともあいまって、公務員になろうとする人が少なくなっている現状があります。
人材の不足に悩む地方自治体のなかには、ユニークなポスターで職員募集を呼びかけるところがあります。人目を引くポスターとキャッチコピーで、少しでも多くの志望者を掘り起こそうという考えです。
そこで今回は、自治体のユニークな職員募集ポスターをご紹介します。
お堅いだけの職場じゃない!自治体がポスターでアピールする理由とは
総務省の調べによると、平成28年度に全国の地方自治体が実施した職員採用試験の競争倍率は平均6.5倍で、記録のある平成6年度以降では最低だったことが判明。背景に、好景気で民間企業が採用人数を増やしたことと、若年人口の減少で人材が不足し学生に有利な売り手市場になっているという事情があります。
地方公務員は安定しているけれども自分がやりたい仕事ではなく、民間企業のほうが面白い仕事ができて、成功すれば報酬もたくさんもらえると考える学生が増えてきたことも関係しているでしょう。採用されても辞退する学生も目立ち、自治体の採用担当者は頭を抱えています。平成29年10月には「北海道職員の採用辞退率が6割を超えている」という衝撃的なニュースが発表されました。
このような状況を打開するために、「ユニークな職員募集ポスター」を作成する自治体が出現しています。観光客の誘致のために記憶に残るポスターや動画を作るのは多く見られますが、その手法を職員採用に取り入れたわけです。特徴あるポスターで職員を募集することで、堅いだけの職場ではないとアピールする狙いがあります。
さらに、昔風の真面目なポスターでは採用が難しかった個性的で多様な人材を採用したいという思惑も働いているでしょう。
ユニークポスターで応募者が4倍に!奈良県生駒市
奈良県生駒市は、毎年ユニークな職員募集ポスターで話題になる都市です。平成26年度には、テレビタレントを意識したポーズを決めたスーツ姿の男女の写真を使ったポスターが話題になりました。
出典:生駒市役所ホームページ http://www.city.ikoma.lg.jp/0000008710.html
平成27、28年度は「超ハマる、生駒市。」というコピーを使い、29年度はマンガ的なイラストと「#生駒は違う」というコピーで公務員のイメージを覆そうとしました。
出典:生駒市役所ホームページ http://www.city.ikoma.lg.jp/0000008710.html
出典:生駒市役所ホームページ http://www.city.ikoma.lg.jp/0000008710.html
出典:生駒市役所ホームページ http://www.city.ikoma.lg.jp/0000008710.html
このときは、3分間の動画も公開しています。
平成30年度のポスターは、「AI can’t do, but I can」というキャッチコピーと、「変顔」をして幼児をあやす女性職員の写真が配置されたものです。
出典:生駒市役所ホームページ http://www.city.ikoma.lg.jp/0000008710.html
アイコンや「いいね」「#」を採用し、Instagramの投稿をイメージして作成。人工知能(AI)にはできない血の通った仕事をする人材(I)を募集するというメッセージが込められたポスターです。実際の生駒市の職員がモデルになりました。生駒市によると、このようなPRを始めるようになって、応募者数は4倍以上になったとのことです。
サングラスの採用ハンターが疾走!兵庫県明石市
兵庫県明石市の採用ポスターは、明石市の商店街の中を新人職員を探して疾走するサングラス姿の男女を登場させたものです。これは、あるテレビ番組をモチーフにしており、平成24年度からデザインやコピーを少しずつ変化させながら使われています。
平成31年度の採用ポスターは「熱いあなたにロックオンだぞっ!」というキャッチコピーを用い、同時に「採用ハンター動画」という採用プロモーション動画も公開しました。
「明石市が熱い!」「採用ハンターが動き出す」「明石市、採用、はじまる」というコピーとともに、黒スーツをまといサングラスをかけた男女が走る様子が映し出されます。
出典:明石市役所ホームページ https://www.city.akashi.lg.jp/soumu/jinji_ka/shise/saiyo/saiyojoho/index.html
また、明石市は、「LINE」や「インスタグラム」などのSNSも活用し、学生の「口コミ力」にも期待を寄せています。若年層に公務員の仕事を知ってもらい、興味を抱いてもらうためには有効ですね。
お笑いあり!自虐あり!長野県中野市
長野県中野市では、平成30年度の採用で初めてユニークな職員募集ポスターを作成しました。中野市の女性職員が、お笑い芸人のブルゾンちえみさんのように背後に男性を従えて「新しい市役所で働きたくない?」と呼びかけるポスターで、堅い公務員のイメージを壊そうとしました。
実際にポスターを見て役所のイメージか変わり、志望の気持ちが強まったという受験生もいたとのことです。
2019年度は「なかの?東京の?」「いいえ、長野県の中野市です!」など、自虐ネタを盛り込んだ4種類のポスターを作成しました。ポスターに登場したのは、すべて実際の市の職員です。
出典:中野市役所ホームページ http://www.city.nakano.nagano.jp/docs/2018061500054/
中野市でも、SNSなどを使って学生とつながり市役所の仕事をPRする活動をおこなっています。ポスターがキッカケになって、学生がより深い情報を求めるようになることが望まれます。
キャラクター使いのうまさといえば!奈良県
奈良県では、毎年、公務員の仕事内容を紹介するパンフレット「奈良県職員業務案内」を作成しています。県の職員の業務内容のほか、職員の紹介や研修制度の説明など、一読して県職員になりたいと思えるパンフレットで、その表紙がユニークです。
平成30年度は、奈良の若草山を飛び越えようとする若い男性職員と「超えるのは若草山だけじゃない」というコピーでした。
出典:奈良県庁ホームページ http://www.pref.nara.jp/45165.htm
過去の業務案内を見ると、印象的なデザインが目立ちます。たとえば、アイドル風の女性が木製の「ツノ」をつけた写真と「奈良を咲かす新メンバー募る」のコピーが可愛らしく書いてあるものや、荒い鼻息が描き込まれたシカの顔アップと「鼻息荒い人、求ム!」のコピーを組み合わせたものなどがあります。
出典:奈良県庁ホームページ http://www.pref.nara.jp/45165.htm
奈良県は、以前から「せんとくん」や「縁結び太郎」といった個性的なキャラクターを使っていましたが、平成27年には、スーツを着た鹿のプロデューサー「大和屋鹿男」が採用PRに登場し、テレビ番組で取り上げられるなど大きな話題を呼びました。
出典:奈良県庁ホームページ http://www.pref.nara.jp/45165.htm
その後も「大和屋鹿男」の活躍は続き、平成30年度も「職員の仕事をもっと知ってもらおう企画」のプロデューサーとしてホームページにとりあげられました。奈良県は印象的なキャラクターを作り、活用するのがうまい県といえます。
準備不要、人物重視の採用試験!東京都福生市
職員の採用が難しくなるにつれて、採用試験の形式を変える自治体も出ています。たとえば、東京都福生市は、平成30年度の職員採用で、「人物重視の選考」をおこなうことにしました。
筆記による職員採用試験を、従来型の知識を問う試験から、基本的な言語能力や論理能力を問う基礎能力検査に変更することで、政治経済や歴史などを覚えたりする受験勉強は不必要になったわけです。福生市のポスターは、女性が持っている皿の上に、中身の入っていないパンを載せて「中身のある職員、募集。」と書いてあります。
具次第で味が変化するホットドッグ。幅を広げた採用をすることで福生市の新しい魅力を引き出したいという想いが伝わりますね。
出典:福生市プレスリリース http://www.city.fussa.tokyo.jp/res/projects/default_project/_page/001/006/694/290807shokusai.pdf
兵庫県加古川市や佐賀県多久市、埼玉県所沢市などでも「人物重視・公務員試験対策不要」の採用試験がおこなわれています。試験のハードルを下げて多くの志望者を集めたいというのは、地方公務員採用試験の大きな流れともいえるでしょう。
また、住民の多くが、知識ばかりの「アタマでっかち」よりも、住民に寄り添おうとしてくれる「人柄の良い公務員」を希望する人が多くなったからともいえそうです。
優秀な公務員の採用のために!自治体の挑戦は続く
少子化と好景気による就活戦線の売り手市場がさまざまな自治体にもたらした「ユニークな職員募集ポスター」は、今後もますます注目され、継続していくことでしょう。少子高齢化や人口減少などの難問が目前に見えている多くの自治体では、自分で問題を考えて解決方法を見つけることのできる、真に優れた公務員が求められているからです。
もちろん、バランスのとれた人格やコミュニケーション能力も必要です。そのためには、今までの試験では採用するのが難しかった多様な人材の確保が必要不可欠。ユニークなポスターを見て志望を固め、人物重視の試験で選ばれた若者は、情熱とやる気、そしてユーモアセンスもあわせ持った、未来の自治体を輝かせる素敵な公務員になることでしょう。